コンディショニング対談 No.04迷路に入りこまないために。

内藤雄士×鈴木岳.(R-body)

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内藤雄士×鈴木岳.(R-body)

ツアープロコーチ、レッスン番組のホスト、テレビ解説、Youtubeチャンネルの制作、雑誌や書籍の執筆等、引く手あまたの内藤雄士さん。多忙の合間を縫って練習をしたところが、思うようにボールが飛ばず、さらには練習を重ねても修正できず「あれ? どうしたんだろう。こんなことなかったのに」。首をかしげていた時に出会ったのがコンディショニング。以来、自分のカラダと向き合って7年、「最近、自分にとても期待できるようになっています」。ゴルフ界きっての理論派に、ゴルフとコンディショニングの関係について伺います。

※本文中は敬称略とさせていただいています。
※2022年3月12日 三井ガーデンホテル柏の葉のカンファレンスルームにて収録

内藤: 「すごいトレーナーの方がいるんです。一度会ってみませんか」。お世話になっていたスポーツ施設の方にそう言われ、紹介されたのが鈴木岳.さんでした。当時、私は『ゴルフトゥデイ』という雑誌に対談を連載しておりまして、出演していただけませんかとお願いしたことがおつきあいの始まりです。

鈴木: たしか8年前ですね?

内藤: ええ。その時に伺ったお話があまりに興味深く、腑に落ちることばかりだったので、すぐR-bodyに入会。最初は恵比寿店、いまは大手町店に通っています。ここ柏の葉の店にはまだ来たことがないのですが、近くにすごくいいゴルフ場があるんですよね。交通の便がいいし、どんどん近代化されている。知り合いが近く住んでいることもあって、住んでみたいなと思っていた街なんです。

鈴木: 強いスイングとは。カラダの動かし方とは。たとえばそうしたテーマに対してどのように指導するのか。あの対談のとき、内藤さんがお話しされたことは、最新の○○理論、流行の××テクニックというようなものではなく、時代や流行とは距離を置いた、とても本質的で、私たちトレーナーがカラダの機能を上げるために運動指導するときとほぼ同じ視点に基づいたものでした。芝生の状態や天候など可変的な条件はありますが、ゴルフは直接に対戦する相手のいない、止まっているボールを打つスポーツ。自分のカラダの機能を上げることがゴルフのパフォーマンスと直結している。内藤さんの話を伺って、言われてみればその通りだなと改めて実感したことをよく覚えています。

内藤雄士×鈴木岳.(R-body)

「カラダの状態=ゴルフの調子を実感」

内藤: カラダの動きについて学び始めてから7年ほど経ちますが、まだまだ道半ば。今日は、会場にいらしていただいたみなさんといっしょに、いろいろ教えていただきたいと思います。実は今日ここに来る前、朝方まで解説の仕事をしていたのですが、仕事が詰まってきて、資料作りなどのデスクワークや、モニター画面を前がかりになって見ることが多くなると、どうしても姿勢が悪くなってしまう。そうなるとクラブを思うように振れないし、R-bodyに行ってもカラダがうまく動いてくれなってしまう。カラダの状態とゴルフの調子とイコールだということをすごく実感させられます。

鈴木: たとえばどのような問題が?

内藤: 腿の裏側、ハムストリングがすごく硬くなりがちなんです。

鈴木: ハムストリングの柔軟性が損なわれると、股関節を正しく折り、背骨をまっすぐに保った前傾姿勢を取りづらくなりますね。

内藤: そうなんです。ちょっと猫背になり、ひざが前に出てきてしまう。そういう状態に陥っている人を私がレッスンするとするなら、真っ先に姿勢を直すのですが、自分のスイングは自分で見えません。動画を撮ってみて初めて気づくことになる。最終18ホールまで来て、カラダに疲労が溜まっているときでも、股関節をいい状態に保ち、正しい前傾ポジションをキープしたいと思っているのですが、仕事が詰まってくるとなかなかそれが。

「みなさん、恐れ入りますが立ち上がっていただけますか」
 筑波エクスプレス柏の葉キャンパス駅から徒歩60秒のところに建つ瀟洒な建物、三井ガーデンホテル柏の葉のカンファレンスルーム。参加者から立ちのぼる濃厚な熱気のなかに鈴木岳.の声が響く。
「右の手のひらを後頭部、左の手のひらを腰の後ろに当ててください。胸を張り、両手が一直線上に位置するように。はい。その状態からカラダを前に倒してください。カラダを丸めたり、ひざを曲げたりしないでください。どのぐらい行きますか?」
「おっ!」「うわっ!」「すげぇ、きつい」。会場のあちこちで驚いたような声がこぼれ出る。
「たかが前屈、ゴルフとなんの関係があるんだと思われる方もいらっしゃると思いますが、先ほど内藤さんがおっしゃったように、いかにして前傾角度を保ち、前後左右にぶれることなく体軸を回旋させるかがゴルフのもっとも本質的な部分。この前傾がうまくいかないと、この先、なにをやってもうまくいかなくなる可能性が出てきてしまうのです」

内藤: ゴルフスイングの非常に重要な要素として、スイングプレーン、フェイスの向きといったものがあげられますが、それらを作る、より良くしようとするとき、根本的な土台となるのが軸の安定、前傾姿勢のキープです。先ほど鈴木さんが言われたように、ゴルフは止まっているボールに対して自分のカラダを動かして打ちにゆくスポーツ。前傾姿勢をきちんとキープできなければクラブはボールのところに戻ってきません。スイングはカラダのさまざまな部位の動きによって成りたっていますが、なかでも私がすごく大切だと思っているのが胸椎と股関節の可動域。R-bodyでトレーニング指導を受けるなかでもつねに意識している部分です。入会してからコンディショニングのメニューはさまざまに変化していますが、このふたつに関するエクササイズは必ず入れてもらうようにしています。

鈴木: 椎骨と呼ばれる積み木のような骨が連結して、首からお尻のあたりまでカラダを貫いているのが背骨。そのうちの首の部分が頸椎(椎骨7個)、その下、肋骨がついているところが胸椎(脛骨12個)、いちばん下が腰椎(脛骨5個)と呼ばれています。そしてゴルフで回旋、カラダをねじる動作においてもっとも動く骨が胸椎です。

「対処療法は迷路への入り口」

内藤: 胸椎の回旋が不十分だとクラブヘッドが先に行きがちになり、その結果、フライングエルボー、チキンウィングと呼ばれる症状が生じるわけです。そういう場合、肘が持ち上がっているから肘を下げましょう、往々にしてそういう話になりがちです。

鈴木: 対症療法ですね。

内藤: そうです。しかし、矯正しようと脇の下にヘッドカバーなどをはさんだりすると、クラブを振れなくなり、まったく飛ばなくなってしまうということが起きてしまいがちです。

鈴木: 胸椎、股関節が正しく動いていないと、そもそも肘が収まってこない。正しくカラダが回旋していれば、脇が大きく開くことはありませんよね。

内藤: ええ、スイング軌道やフェイスの向きというようなことは、クラブを使ってのレッスンで修正できますが、原因が可動域に及んでいる場合、鈴木さんの領域からのアプローチが必要です。正しいスイングの方法、理論を知ること、同時にそれを可能にするためのコンディショニングをすること。この2つが重なると、レッスン効果との相乗効果が生まれ、上達のスピードが急激に上がってゆきます。私自身、それを体感しています。

鈴木: 人間のカラダは約100度ねじれるようにできています。90度プラスほんの少しが正常値。腰に手を当て、頭の先から地面まで杭を貫いたようにまっすぐに姿勢を保ち、その状態から腰をそらしたり、ひざを回転方向に折ったりしないでカラダをねじり、右肩と左肩の向きを確認する。50度は胸椎をまわして作る。残りの50度を股関節のひねりで作る。半分半分でイメージすると分かりやすいと思います。もし、100度に届かないとしたら、どんな方法でスイングの修正を試みても、行き詰まると思います。

「みなさん、姿勢が良くなるような座り方をしてください。あぐらでも、片膝立ちでもかまいません。いいですか? みぞおちとおへそを指でさしてください。みぞおちは腰椎の一番上、おへそは一番下におよそ位置しています。それではその状態で、思い切りカラダをひねり、顔を元の位置に戻して指の位置を確認してください。ひねる前、みぞおちとおへそは直線上に位置していましたが、どうしょうか? 思い切りひねってもほんの数センチしかずれないことがわかると思います。もし腰のひねりでバックスイングを行っているのだとしたら、指の位置はもっと大きくずれなければならないわけですが、カラダはそうはできていません。腰をねじる、腰を切るいうような表現がありますが、腰椎は解剖学的にねじれるような構造にはなっていません。バックスイングは腰椎では作られないということなのです。それではねじれは主にどこで作られるのか。腰椎と頸椎の間、胸椎なのです」

内藤雄士×鈴木岳.(R-body)

内藤: 「ゴルフスイングって、肩甲骨周りが柔らかければいいんじゃないですか」。キャリア20年余りのゴルフの記者にそう言われて驚いたことがあります。よくある勘違いの1つだと言っていいと思いますが、胸椎をきれいに回すためには肩甲骨を正しく安定させること、すなわちショルダー・パッキングが不可欠。とりわけ現代のシャフトが長くヘッドが大きいドライバーをコントロールするための、すごく重要なポイントになります。

鈴木: 前へ倣えをして、両方の手のひらを外側にグルグルっとひねる。そしてひねりが最大になったら、その状態を維持したまま、肩を下げて耳との距離をできる限り遠くする。そうすると肩甲骨が下がり、脇の下のあたりにググっと力が入ることが感じられると思いますが、これがショルダー・パッキングです。

内藤: その状態を維持し、両肘の内側を真上に向けたまま左右の手のひらを合わせると、正しいゴルフの構えになります。

「カラダの動きを意識できる、できてしまうゴルフ」

鈴木: ショルダー・パッキングがきちんとできていれば、手のひらを合わせて肘の曲げ伸ばしを行うとき、手をスムーズに顔の前に動かすことができます。肩甲骨と肘がゆるんでいると、肘を曲げ伸ばす際に、手がさまざまな方向に動いてしまいます。

内藤: 手と肩の距離が伸びたり縮んだりしないようにしてトップの形が作ることができたら、右肩が落ちただけでインパクトができますが、ショルダー・パッキングがルーズな状態でフェイスを大きく回旋させると、開いたまま戻らなくなり、右に行ったり、無理矢理戻そうとすると今度は左に行ったりというようなことが起きてしまいがちです。

鈴木: 肩甲骨でも回旋動作はできます。前へ倣えをして右の肩甲骨を前に出し、左の肩甲骨を後ろに引く。逆方向に同じ動きをする。これが肩甲骨だけで作る回旋です。しかし、回旋といってもごくわずかですし、それ以前にクラブを手にしたらこの動きはできませんから、肩甲骨の回旋でスイングをすることはできません。胸椎と股関節、それがすべてではありませんが、この2つが動いていないと、そもそもバックスイングができないのです。クラブにはある程度重さがあります。慣性の法則が働くので、結果、肩甲骨が動く。自分から能動的に動かしていくのは胸椎、肩甲骨はそれに伴って動くもの、それぞれそう位置づければいいと思います。

内藤: 肩甲骨を正しくパッキングさせ、胸椎をきれいに回してトップを作る。そして股関節がしっかり折りこみ、前傾を保ったまま、腰のターンでヘッドを下ろすと、フェイス面がぶれることなく、お寺の鐘突きのような感じのドーンというインパクトになる。しかし、胸椎が十分に動かない人は、どこか別の場所を動かしてクラブを上げようとするために、往々にして迷路に入りこんでしまうことになります。

鈴木: 正確で再現性の高い回旋動作がゴルフの本質であり、難しいところでもあると思います。しかし回旋をするためのカラダの機能が不足していると、他のいろいろな動作でなんとかしてクラブをボールに当てようとしなければならなくなる。その結果、誤作動が起き、連鎖し、いま、おっしゃったように迷路に迷いこむことになる。

内藤: カラダの機能に問題化がある場合、テクニック的な対症療法が正解を引き寄せることは、まずないと思っていいと思います。ゴルフのためのカラダのコンディションをきちんと整えておけば、カラダはきれいに回転してくれますし、余計な動作をしなくなる。腕が上がらないし、肘が変な方向に向くこともなくなります。

鈴木: もう1つ、カラダの動きを意識できることも迷路に入りこむ原因だと思います。例えばサッカーのプレイ中、肩甲骨、胸椎、股関節を意識してボールを蹴るということはできません。でもゴルフはできる。できてしまう。たとえば初動で体幹を固めること意識し、腕と上半身を一体化させる意識を持ち、その意識を持ち続けながら、腹筋を締め、腕を柔らかく使おうということになると、物事が必要以上に難しくなってしまい、逆にクラブを振れなくなってしまいます。筋肉はオンとオフがあることで初めてパワーが発揮されます。初動を意識するのは良いと思いますが、その後は流れを大切にしたほうがいい。トレーナー的な観点からすると、そう思います。

「内藤さんもやられている胸椎回旋のエクササイズを紹介します。まず左膝を床に着け、右足を前に出して片膝立ちをします。次に、左手を右膝外側の横、右手を右側頭部、耳のうしろに当て、その状態からカラダを右回転させます。思い切り、ぐーっと。これが胸椎を回旋させる感覚です。両膝立ちで行うと、胸椎が回旋しない人は腰をひねることによってねじれを作ろうとしますが、片膝立ちではそれができません。もう1つ、足に前後差をつけて立ち、前へ倣えをした手のひらにクラブを乗せてカラダを左右にねじる。これもコースに入る前にできる、簡単で効果のある胸椎のストレッチです」

内藤雄士×鈴木岳.(R-body)

内藤: 私がゴルフのレッスンを受け始めたのは9歳のとき。長く選手として活動し、さらにコーチとしてもスイングの勉強をしてきましたので、どのようにクラブを振ればよいかということは頭にあるのですが、冒頭に申し上げましたように、仕事が忙しくなってくると、当然練習量が減る。そこに加齢が重なって、カラダがうまく動かなくなる。仕事が一段落し、久々に時間ができたのでたくさん練習してみたところが、全然当たらない。あれ?こんなことをなかったのに。鈴木さんを紹介していただいたのは、そんな思いを抱いていたときでした。R-bodyに通うなかでカラダについての知識を学び、自分のカラダで実践するうちに、この部分の可動域が狭まっているのか、ここの筋力が不足しているな、というようなことがわかるようになってきました。そうなれば、あとは必要なコンディショニングでカラダの状態を整えるだけ。細かい悩みがいまは本当になくなりました。

鈴木: テクニック的なアプローチによる問題の解決は、カラダがきちんと動く状態であることが前提です。カラダの機能不全に原因があったら、どんなにテクニックに工夫を凝らしても、おそらく理想のスイングには届かないでしょう。

「最近、自分にとても期待できるにように」

内藤: 「全然当たらないんです。どうしたらいいんでしょうか」。そう言ってレッスンに来られた方に、なんとかして「当たるようになりました」と言ってもらいたい。モチベーションを上げて帰ってもらいたいけれど、与えられた時間は1時間しかない。本質からたどっていくと、目的にたどりつくことは難しい場合、どうしても「腕の動きが硬いから、もっと軟らかく」といったような。即効性を期待できるアドバイスを引っ張り出したくなる。そういうケースは少なくないと思います。しかし、どんなに制限時間が短くても、本質をしっかり押さえてレッスンを行わなければ次につながらなくなってしまう。自戒をこめてそう思います。

鈴木: いま、スマートフォンという便利なツールがありますので、簡単に自分のスイングをチェックすることできますが、機能不全はそうはいきません。痛みがあれば、なにか問題があるなとわかりますが、ほとんどの場合、機能不全は自覚症状がないからです。先ほど胸椎回旋のエクササイズをやっていただきましたが、あのとき、かなり多くの方が「あれ?思ったよりひねれていないな」という顔をされていました。自分の機能不全は、このようなエクササイズを実施してみて初めて気づくんです。

内藤: 私自身、痛感したところですが、カラダの機能のチェックは専門家の手を借りなければ無理です。自分のカラダを理解し、理論・テクニックを理解する。2つの理解がそろえば、相乗効果が生まれて上達が早くなるし、同時に下手になりづらくなります。時間が許せば、毎日R-bodyに通って、自分のカラダをもっともっと動かしたいように動かすことができるようになりたい。練習量、ラウンド数を増やしてゆきたい。それを積み重ねていけばすごくいいものが作れるはずだと、最近、自分にとても期待できるにようになっています。みなさんも、ぜひ一度、自分のカラダの機能をチェックしてみてください。実感をこめてオススメします。

内藤 雄士

内藤 雄士NAITO YUJI

日本プロゴルフ協会ティーチングプロ
日本大学ゴルフ部在籍中にアメリカにゴルフ留学し、最新のゴルフ理論を学ぶ。
帰国後、ゴルフ練習場ハイランドセンター(杉並区・高井戸)にラーニングゴルフクラブを設立し、レッスン活動を始める。
1998年、ツアープロコーチとしての活動を開始。
これまでに丸山茂樹プロのPGAツアー3勝など、契約プロゴルファーの多数のツアー優勝をサポートしてきた。
現在は日本プロゴルフ協会ティーチングプロとしての活動に加え、様々なゴルフ媒体への出演、PGAツアーを中心としたゴルフ中継の解説、一般財団法人丸山茂樹ジュニアファンデーションで理事を務めるなどジュニアゴルファーの育成にも力を入れている。